若年性癌についてのインタビュー掲載(BBC)と大規模集団研究の重要性について
つい先日、BBCに若年性癌の増加についてのインタビューが掲載されました。
記事中では、20世紀半ば以来の数十年にわたる世界的な食生活(加工食品、食品添加物や砂糖の過剰摂取など)、環境、生活習慣(運動量の低下や、照明器具による睡眠リズムの乱れなど)の大きな変化を含めた今までに考えられてこなかったような要因が複雑に絡み合った結果、若年性癌が持続的に増加してきたという私の考えを述べています。
余談ですが日本は夜間の照明が明るすぎ、東京などでは深夜に煌々と電気の灯った満員電車が走っています。これが如何に自然な睡眠を妨げ、癌に限らず健康に悪影響を考えているか、真剣に考えられた方がよいと思います。睡眠については、私なりの考えがあるので、また機会があれば記事にしたいです。
若年性癌の急速な増加の要因の科学的根拠については検証が待たれますが、現在はそれを得られる十分な環境はないといってもいいでしょう。一番理想的なのは、幼少期から大規模集団で前向きに生活環境など様々な因子を記録してフォローすることです。そういう1つの集団だけでも、将来的には癌とそれ以外の数十以上におよぶ疾患の病因を解明するのにも有用で、もちろん莫大な費用はかかりますが、多数の小規模集団の研究にお金をばら撒く(現在の傾向)よりも費用対効果は格段に高いです(こちらの記事も参照)。
これについては先日のヨーロッパ臨床腫瘍学会(ESMO)の基調講演でもお話ししました。私の講演を取り扱った記事の中に、大規模集団のフォローアップについて、費用に対して得られる成果が乏しくこのような研究を始めるのは時期尚早だと述べられてる方がいたと記憶していますが、私が参加しているNurses Health Studyも、1976年に開始して、実りある成果が得られるまで、少なくとも10年はかかっているわけです。しかしながら開始から50年近くの現在に至るまでまだまだおびただしい数の知見が数十に及ぶ疾患や健康状態について次々と報告されています。大規模集団研究の費用対効果が優れているのは火を見るよりも明らかです。ただし、この集団は幼少期からフォローアップを始めていないため、やれることはありますが、若年性癌の増加要因の解明については残念ながら充分ではありません。
1970年代にこの前代未聞のコホートの構想をした先見の明には尊敬の念にたえません。立ち上げたリーダー達の成果は冗談ではなくノーベル賞に十分に匹敵していると考えます。彼らは通常のノーベル賞候補者的な生物医学者ではないことは明らかですが。研究というのは短絡的な成果でなく、十年単位で物事を見通して行うべきではないでしょうか。