東京医科歯科大学での学術顧問としての講演内容(学んだことは全て役立つ・他人と違うことをする)
今まで私が働いてきて実感しているのは、結局、学んだことは全て役に立つということです。
医学部卒業後に選んだ病理学の専門性を生かして、アメリカで解剖病理学および臨床病理学の研修医となることができました。更に、研修医となったあと、ポスドク中に分子生物学実験を行い、更に分子病理診断学後期研修をすることができました。ハーバード大学に来てからは、前向きコホート内発生腫瘍の組織バイオバンク(PCITB)の立ち上げに関連する分野として興味を持ったため、ハーバード大学公衆衛生学大学院で統計学・疫学・生物情報学を専門的に勉強しました。これらは全て、PCITBを用いた分子病理疫学(MPE)の発展に役立つ専門知識です。
今でこそ、Interdisciplinary(学際的)という考え方が広まり、異なる専門性をかけ合わせて既存の分野に縛られない全く新しい分野を創造するということが珍しくなくなりましたが、私の若い頃はそういった考えはあまりありませんでした。とはいえ今でも日々分野の壁に苦労していますし、私のようなバックグラウンドがない人だと、私の研究の本当の価値を理解してくれる人はいないと考えています。そのため私の営業活動が不可欠となるわけです。
ただ、封建的・江戸時代的しきたりが続く日本を脱出すると決めてから、研修中も病理学という分野の進化の方向性を考え、分子病理学という専門性を身につけたことでその後データサイエンスと分子病理学を組み合わせた自分しかできない専門分野(MPE)の確立につなげていくことができました。前述のように私と同じような専門性を持った人がほとんどいないため、真価が理解されにくいことが悩みですが。
また、教科書に書いてあることが全て正しいと思わないことです。例えば、私が学生の頃は人間の組織は無菌であるべきだと教科書に書いてありましたが、現在は実際には人体のほぼどこにでも微生物は存在することがわかっています。既存の価値観にしても同様で、例えば、日本で大学卒業後新卒一括採用で会社に就職するという常識も、時代の流れとともに変化に迫られています。私は自分のキャリアは組織や他人でなく、自分自身でコントロールするということが肝要だと思っています。その際に役に立つ専門性があれば、仕事に困らずもっと大胆な挑戦ができます。
私の場合、病理医という専門性があったため、もし失敗してもどうにかなると思って未知の未来に進むことができました。
私のように他人と違うことをすれば、基本的には競争相手がいないので無用な競争に巻き込まれることなく世界に唯一無二の研究を行うことができています。他人と同じ、あるいは流行りの研究に多くの人が群がり、流行が過ぎると忘れ去られていくというのが研究業界の常です。科学の進化にとっては、人が必要以上に集まりすぎるのは非効率なばかりか、他の分野から研究費などを過度に奪ってしまうことで、本当に真価がある稀少な研究を阻害してしまいます。そういう研究者たちは多数いるせいで、唯一無二とはいいがたく、簡単に取り換えが効く人物になってしまいます。これは研究に限ったことではないですが、特に日本人には、皆と同じことをする傾向が強いので声を大にして問いたいのは、他人と同じことをする意味、価値はどれほどあるのか?ということです。他人の真似ばかりして自分の人生の主体者になりきれていない人が多すぎるように感じます。