第5回国際分子病理疫学会が盛会にて閉幕

第5回国際分子病理疫学会が盛況でした。2日目も、特別招待講演者の米国国立癌研究所(NIH)の癌疫学遺伝学部門長のStephen Chanock博士を始めとする豪華な講演者が集まりとても素晴らしい会となりました。

パンデミックにより、去年予定していた開催を1年延期にしたので、3年ぶりの大仕事でした。無事盛会となって喜びもひとしおです。1年の延期はボストンで開催できることも少しは期待してのことでしたが、結局オンライン開催となりました。去年の今頃はまだオンライン学会の開催方法に対するノウハウが蓄積されていませんでした。延期のおかげで、米国癌学会(AACR)を始めとする大きな学会や、私がアドバイザーをしているボストン日本人研究者交流会などの、100人前後の規模でもっと手作り感の強い講演会の運営方法を体験して勉強させてもらったおかげで、私自身初めてのオンライン学会主催でしたが、概ねうまく行ったと思います。共同座長、プログラム委員会員、運営にあたってくれた鵜飼博士を始めとするラボのメンバーのおかげです。

2日目の講演で特に印象に残った内容がありました。ハーバードメディカルスクール及びマサチューセッツ総合病院のGary Tearney博士の講演です。Tearney博士とは、2011年に米国カナダ病理学アカデミー学会で私が学会賞をもらったときに、学会主催のお祝いディナーで隣の席になって以来の知り合いです。Tearney博士はその学会でタイムリー・トピック・レクチャーをしたのでした。

彼は私と同じ病理学教授であり、生きたままの組織の非侵襲な病理診断法の開発を研究テーマとしています。もう少しわかりやすく説明すると、従来の病理検査では、癌などの組織を体から切り出して、死んだ組織を固定してから、染色して顕微鏡観察したり、組織から取り出した分子成分を分析します。そうして、例えば癌の悪性度、分子異常などの診断を行っています。つまり、組織を切り出すために外科手術や生検等の処置(侵襲)が必要となりますし、組織が死んだ状態でしか解析できません。ところが、Tearney博士の開発する方法では、体の外や菅の中空からプローブを組織の上に当てることにより、その組織が生きた状態での病理検査が可能となります。これは、従来の病理学診断方法を根本から変えるような革命的な方法です。授賞式で知り合いになって以来たびたび話を聞いていると、年々解像度が上がっていてかなりの情報が取れる段階になっているようです。分子病理疫学(MPE)を専門とする私にとっては、こんな朗報はありません。なぜなら、外科手術等の処置なくして組織を病理診断できるということは、組織に関する大量の病理情報が得られるということであり、組織の病理情報を用いるMPEの飛躍的な発展はもちろんのこと、医療全般を進化させる可能性のある技術だからです。未来の医療が見えた気がして、とても興奮しました。彼には毎回のように国際分子病理疫学会での講演を依頼していましたが、ようやく講演が実現しました。

Tearney博士以外にも、1日目、2日目を通じて素晴らしい講演者の方々が講演をしてくださり、とても良い学会でした。ただ、オンライン開催はネットワーキングがやりにくく、一方的に講演者の話を聞くだけということになりがちです。これが本当の学会であれば、廊下で久しぶりに会った知り合いと立ち話することができるのですが。この問題を解消するために、学会終了後に設けたネットワーキングセッションが好評でした。また、講演者以外は声を出せないメインの講演会場とは別に、ブレイクアウトルームを設けてそこでは参加者がミュートを外して会話できる設定も試験的に導入してみました。どのくらい使われていたのかは忙しくてチェックできていないのが残念です。また、参加者に関しては約400名の登録があり、だいたい常時100人前後、ピーク時で約140人、話を聞いてくださっていましたが、出入りが多かったはずであり、全容は把握できませんでした。おそらく200人近くが参加したものと推定されます。参加者を追跡できる仕組みがあれば今後の開催に活かせると思いました。ズームの機能のバージョンアップを期待します。

さて、第6回国際分子病理疫学会は2年後の2023年4月24日と25日にボストン及びオンラインで開催予定です。今年に延期となったおかげで、国際分子病理疫学会のちょうど10周年の記念日(私の誕生日でもあります)に開催することができそうです!特別招待講演者などは、1年以上前に依頼をしないと忙しくて予定を確保してもらうことができないので、早めに行動することが肝要です。今から早速プランニングを始めます。皆様も興味がございましたら随時ホームページをチェックしてください。

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