若年性大腸癌についての総説
前回の記事でも述べた、若年性大腸癌についての総説が私の研究室からつい先日ネイチャー・レビュー(臨床癌科学)誌に発表されました。
https://www.nature.com/articles/s41571-020-00445-1
ちなみにこの雑誌のインパクトファクターは今年50を超えました。私はインパクトファクター偏重主義には絶対反対ですが(過去記事の科学業績の真価とは1と2を見てください)、注目度が高く科学界の多くの人に見てもらえるので、やはりインパクトファクターの高い雑誌に載せるに越したことはありません。
若年性大腸癌を含め様々な若年性癌の増加については、5-10年ぐらい前から癌の研究者の間で問題とされ始め、今年は癌研究者の間でも注目度が高いアメリカ国立癌研究所(NCI)のProvocative Questionsのトップの問題に選ばれるなど最近になって急激に注目され始めている分野です。特に若年性大腸癌が先頭を切って増える様相を提しています。
私自身もだいぶ前から問題意識を持っており、なぜ80年代以降、様々な若年性癌が増加することとなったのか、その解明には私の専門とする分子病理疫学(MPE)による知見が生かされると考えていました。そろそろ考えをまとめたいと思っていたところ、今年に入って偶然が重なってネイチャー・レビュー(臨床癌科学)誌への執筆の機会をいただいたくことができました。パンデミックで研究室に通えない状況が続く中で、研究室のフェローとビデオ通話などで議論しながら一緒に仕上げることができました。
この論文の最初の3人の共筆頭著者は現在の研究フェローで、4-5番目の共著者は過去の研究フェローです。また、6-9番目の共著者は共同研究者です。私のラボでは研究フェローの現在・将来の活躍を重視しています。
繰り返しになりますが、科学的な疑問に根本的に答えるためには、短期的でなく長期的な視野を持った投資が不可欠です。若年性癌について言えば、胎児期からの環境因子などを継続的にフォローアップする大規模集団が必要になっています。科学界の潮流が、目先の成果を追い求めて疲弊していくのは望ましくありません。このような環境が改善されることを望んでいます。