コロナ後の社会変革への希望1
今回の新型コロナウイルスの流行の長期化は必至で、まだ気が早いですが、コロナ後の世界の社会への展望について今まで考えてきたことを書いておきたいと思います。
今回の騒動は、近いうちに起こるはずだった種々の変化をより一層早めるきっかけとなったようです。例えばリモートワークやIT化の加速が良い例でしょう。また、現在の感染被害の状況などはある意味、世界や各国に元々ある問題点を炙り出したものになっていると思います。加えて、グローバル化により各国の相互依存が進んでいるために今までにないスピードで世界規模の被害拡大となってしまいました。一国の問題は、もはやその国だけの問題ではない時代であることを皆がもっと強く認識するべきでしょう。
今回の新型コロナウイルスのパンデミックを良い契機として世界中が社会のあらゆる問題点を解決し、未来に向けて社会を変革しないとまた再び同じことが繰り返されていくでしょう。何でも前向きに捉えていくしかありません。
アメリカを例に考えます。まず、アメリカでここまで被害が拡大した要因は、医療や科学水準の低さ、政策のスピードや決断力の問題ではないと思われます。
CDCは当初はマスクを推奨しなかったり、検査の精度に不備があるなど初期対応にいろいろな誤りがあったことが報道されていますが、基本的にはデータや科学的合理性に基づいて政策が遂行されており、政府がやるべきことはそれなりにやっているように見えます。
中国からの素早い入国制限(東海岸では変異型がヨーロッパから流入して今の大流行を起こしているようなので、どの程度効果があったのか不明ですが、その時点では最善策だったでしょう)、強力なロックダウンの実行、経済対策のための迅速な資金の給付、データ収集のためのPCR検査の拡充やサンプリングのための抗体検査の実施、マスクの着用への方針転換などです。マスクの例などは、失敗すればすぐに方向転換して、それを無用に責めないドライさがあってアメリカらしいと思います。過去のことを掘り返しても生産性がありません。むしろ失敗からこそ学ぶ。日本もこの点は見ならうべきでしょう。
アメリカには世界中から優秀な人材が集結して活躍できる土壌があり、政策も割と合理的でスピード感もあるのに、ここまで被害が拡大してしまったのはなぜか?という根本的な問題を考えなければなりません。
ウイルスの型や人種の違いなども一因でしょうが、アメリカ社会全体のボトムアップが上手くいっていないことが大きく影響していると私は考えています。つまり、経済格差の拡大とそれに伴う諸問題、例えば、医療へのアクセスや健康格差などを長年放置してきてしまった結果です。
詳細の分析は後々データが出揃ってからになるでしょうが、現時点でも低所得者層や特定の人種の住む地域周辺での犠牲者が多いことが報告されているようです。また、私が常々問題点として挙げている、糖分、肉、動物性脂質、精製穀物製品が多く、それ以外の必要な栄養素の乏しいカロリーが高く偏りのある食生活も、基礎疾患への罹患リスク、つまりは新型コロナウイルスへの感染リスクと関係しています。厄介なのは健康も経済的優位性に関連してしまっているところです。
経済格差に起因する様々な問題は、長年認識されつつも、改善の傾向が見られないままアメリカ社会の弱点として内在してきました。今のアメリカでは、努力次第ではどうにもならないことが多すぎます。その格差問題が前回の大統領選のトランプ大統領の勝利の一つの原因ともなりました。ここまで格差が固定化し、更に拡大してしまうような社会構造を簡単には変えることができません。格差が広がりすぎると、皆が生きるのに必死で社会はギズギスしてきます。全米でも特に競争が激しいボストンで生活するのは大変でもあります。
今回のパンデミックは、こうした社会の弱点を突いてきたと考えています。問題なのは、社会的弱者の集団で感染が広がりやすく、そこで患者数が増加すると、自ずと他の集団にも感染が伝播していくことです。結果として、社会全体の患者数が爆発的に増えて、限られた医療資源を圧迫してしまいます。その結果、社会全体の経済活動の停止を余儀なくされてしまいます。また、冒頭でも述べたように、感染症はもはや一国だけの問題ではないので、世界的な恐慌を巻き起こしてしまうことが奇しくも証明されてしまいました。
また、大枠で考え、よく言えばおおらかで悪く言えば適当な文化が、この件に限ってはネガティブに働いてしまったような気もしています。日本人のようにあまり衛生に神経質ではないのは公衆トイレや駅などの公共の場所の普段の状態から明らかです。靴を玄関で脱ぐ習慣は普通ありません。靴のままで椅子や机の上にも平気で乗ります。家に帰ったら手を洗うという習慣もないと思います。あまり細かすぎないことが却ってよいこともたくさんありますが、今回のウイルスの感染力は強く、少しの油断の隙を突いてくるようです。
そんなアメリカで、今はマスクの着用が義務付けられ、みんなが神経質そうに手の消毒をしてマスクをしているのは驚きです。現在マサチューセッツ州は経済活動再開の第一段階にあります。研究室の人員も限られた人数なら出勤可能ということになりましたが、同僚と会議をしていても、空調を伝ってウイルスが伝播しないかなどを心配して出勤することすら注意しているようです。普段ならありえないことでしょう。
では、アメリカはどうしたら良いのでしょうか。どうにかしてこの歪んだ社会構造を健全な状態に近づけて行くしかありません。
できることとしてまず思いつくのは、公立学校のレベルの格差を縮めていくことでしょう。今のアメリカでは、住む地域(つまり所得)で受けられる教育の質が変わってしまうという現実があります。また、大学の学費がべらぼうに高いことも高等教育を受けにくくする要因となっています。大学教育にそこまでのリターンがあるか、もはや疑問に思うレベルです。
理想的には、日本のような国民皆保険制度の実現がありますが、アメリカでそれをやろうとすると、専門職である医師やその他医療職の給与が十分に確保できず、かなり難しいと私は考えています。少なくとも、医療費の高騰に歯止めをかけないといけないでしょう。また、私が推奨するがんの予防、健康な食生活によって病気自体を防いでいくアプローチの重要性が、特にアメリカではもっと世間に認知されればよいなと思います。また、予防が重要なのはアメリカに限ったことではありません。今回のパンデミックでもその点はあまり議論されていないように思いますが、重症化する人が少なければ医療崩壊も起こりにくかったでしょう。ただ、前からも言っていますが、予防は一朝一夕で効果が出るものでなく、効果がわかりにくいために重要性が軽視されています。
次は、日本について考えていることを書きます。