コロナ騒動のボストン5(久しぶりの出勤)

しばらく更新が滞りました。今週までの2か月弱はずっと自宅勤務をしていました。その間、週に1度の食糧購入以外はほとんど外出はせず、ひたすら自宅で仕事をしていました。

以前も書きましたが、私の研究室ではデータ解析が主体ですので、出勤停止となり実験ができなくなっても、有難いことにリモートでかなりの仕事ができます。研究室のポスドクがたくさん論文を投稿してくれているので、今は論文投稿とリバイス等の仕事を中心として、出勤していた時よりも忙しいくらいです。自宅での仕事は却って快適すぎてストレスはありません。この騒動を契機として、社会構造や働き方も大きくシフトすると実感しています。

実験ができないと研究が進まない研究室に留学してきているポスドクの皆さんは大変だろうなと心配しています。これで将来設計が大幅に狂ったという人たちもたくさんいるでしょう。しかし、今回のコロナで誰もが何らかの形で影響を受けていますから、それでもできることを探して前向きに何かを進めるしかないです。

私の所属するブリガム・アンド・ウィメンズ病院も3月中旬から必要最低限の出勤以外は禁止されています。今週は分子病理遺伝診断の当番の週でしたので、およそ2カ月ぶりの出勤となりました。自宅で診断できるものならそうしたいのですが、患者の個人情報を扱うために出勤しないと難しいようです。コロナ患者さんをケアしている仲間とは比べものになりませんが、久しぶりの出勤で多少緊張感があります。

まず、建物の入り口で、体調等の変化がないことを事前申請して確認した証明書メールを提示して入館します。入り口にはマスクや手袋が用意してありますが、ボストンでは現在マスクなしの外出は禁止されています。普段臨床当番で診断するときはブリガムの本院で行うのですが、今はコロナ患者さんがいるので、離れた建物にある研究室のパソコンから診断を行うことができます。研究室のある棟には人がいません。この一週間は診断業務等の研究室でしかできない仕事を行う予定です。

ちなみに、私の病院ではコロナ患者さんを受け入れるために、不要不急の診療や手術は全てキャンセルされています。したがって、私が診断する癌の数も普段よりは少なくなっていますが、やはりゼロではありません。それでも、早期発見が遅れてしまうなどの癌患者への影響は少なからずあるでしょう。それも含めてこのウイルスの被害を考えないといけません。また余談ですが、結果として病院はどこも大赤字を出しているようです。ボストングローブ紙によると、7月までにマサチューセッツ州の病院全体で50億ドルの減益が見込まれているとのことです。

マサチューセッツ州は3月10日以来およそ2月もの間、緊急事態宣言に伴って経済活動を制限していますが、なぜか新型コロナウイルス関連の死者数等がなかなか改善しない状況が続いています。

死者数は4月中旬から後半にかけては毎日150人から200人で、時に200人を超える日があり、5月に入ってからは日によりますが、100人から150人の間となることが多い状況です。ICUにいる重篤な入院患者数は4月末のピークで約1,100人で、現在は800人へと継続的な減少が見られ、改善の傾向は確かなようですが、かなり時間がかかっている印象です。

先日州知事がこのまま統計の改善傾向が続けば5月18日に経済活動への制限を緩和する可能性を示唆しましたが、どの程度の実現可能性があるかは不透明でしょう。日本では緊急事態宣言から約1ヶ月で、死者や感染者が出ない県も出始めるなど、明らかな改善が見られているのとは大違いです。日本の方が外出制限等の規制が緩いのにも関わらずです。

疫学者として、なぜ両国にこのような顕著な違いがあるのかとても興味があります。以前にも書きましたが、日本人の民族的な特性(清潔な文化や、要請に対して比較的従順であること)、国民皆保険制度、貧富の格差が比較的小さいことに加えて、人種・遺伝的な特性、武漢型のウイルスへの初期の暴露による抗体取得の可能性など、様々な要因が挙げられています。更に私の専門である食生活等のライフスタイル(新型コロナウイルスに対するリスク要因となる疾患と関連がある)なども含めて、複合的な要因が関わっていると考えられます。こうした複雑な因果関係を解き明かすことこそ、疫学の真骨頂です。コロナ禍が収束してから詳しい解析をして、将来のパンデミックに備える知見を作るべきでしょう。

最後に強調しておきますが、被害の拡大が減少しても、油断は禁物という気持ちには変わりがありません。感染者が少ないということは、今後予測される第2波、第3波の被害が大きくなる可能性が考えられるからです。向こう1年(またはそれ以上)は何らかの制限下での生活を行って行かなければならないでしょう。我々は未来の新しい社会へと順応していく時期にきているのかもしれません。

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