失敗を恐れるな1

今回は失敗を恐れないことの重要性について書きたいと思います。失敗を避けようとすることが実は失敗であったりします。

私が日本で違和感を感じることの一つは、失敗のないキャリアを積んだ人間、要はリスクを取らずにそつなくやってきた人間が組織で評価される場合が多いということです。チャレンジしても次がないと人は萎縮してリスクを取らなくなります。その結果、誰もが他人と似たようなキャリアを積んで、限られたポストを巡る競争に挑みます。もし成功すれば良いですが、うまくいかない人のほうが多数です。その結果、先日の記事に書いたように、年を取れば取るほどやる気を失ってしまう人が増えてきます。

日本の医学部の場合にも王道の出世コースがあり、医学部卒業後に研修してからまた大学院に戻り数年過ごした後に留学して(昨今は留学すら人気がないと聞きますが)出身大学に戻り、その後出身大学の教授を目指すというコースです。教授は一度就任するとだいたい20年くらい変わりませんので、その間は他の人は教授にはなれません。その結果、自分の出身大学の中にとどまっている確率がアメリカに比べて非常に高く、ポストの流動性もないので他にやる気のある人を活かすことができなくなってしまっています。これで良いのでしょうか?これこそまさに江戸時代の幕藩体制のシステムと同じです。

留学してくるポスドクの中にはアメリカでもやっていけそうだなと感じる人もいるのですが、大体の場合、日本の出身大学に戻る約束があったりして帰国してしまうのはもったいないなと思います。また、そもそも通常のケースでは留学する年代が30代半ばなので、米国医師国家試験の受験などのスタートが遅れていてアメリカに残る際に不利になってしまいます。もちろん、日本で言う通常のルートを歩んでいたのに留学をきっかけにこちらでポストを獲得されている優秀な先生もいらっしゃるのでアメリカに残ることが無理というわけではありませんが、普通はかなり厳しいことは確かです。

ですから、もしやる気があってアメリカでやっていきたいならば私のようになるだけ早い年齢でアメリカに来るほうが良いと思います。ただし、アメリカは完全なる自己責任の社会なので、生き残ろうが失敗しようが他人は助けてくれません。並大抵の気持ちではやっていけないのは確かです。それでも日本のある意味守られた環境でやるのが物足りない、あるいは私のように合わないと思っている人は試してみる価値はあると思うのです。ただし、昨今はますます競争が激しくなっていますので、余程の能力とバイタリティがなければ厳しいかもしれません。また、一度ルートを外れると日本に戻りにくいのがチャレンジを阻む原因にもなっています。

ちなみに余談ですが、重要なので付け加えます。私はアメリカ方式がすべて良いと言っているわけではありません。アメリカの表面的な良さばかり語って真似をすることは危険です。昨今のアメリカの行き過ぎた競争主義のせいで、科学に精神的な余裕を持って臨むことが大変難しくなり、研究者は予算を獲得するだけで疲弊しています。このままでは良いサイエンスができないと感じています。日本は中途半端にアメリカの競争主義だけを真似するのはぜひともやめていただきたいと思います。

前置きがとても長くなりましたが、これはキャリアでの一例です。いかに日本式のシステムで失敗を恐れないチャレンジがしにいくいかということです。私はとりあえずどうにかなると思って若いうちにアメリカに来ました。若いうちに失敗は山程ありましたが、全ての経験が財産になったと思っています。私は決して順風満帆に今のポジションについたわけではありません。次回は私がキャリアを積む中で失敗したこと、なぜそれが今に生きているかを書きたいと思います。

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