FASEB Excellence in Science Awardの選考2(受賞者には何が必要か?)
前回に引き続き、FASEB Excellence in Science Awardの選考について書きます。
FASEB Excellence in Science Awardは女性科学者を対象とした賞で私は審査委員を務めて6年目になります。
毎年事務局から大量の審査書類(履歴書、推薦状3通、最も重要な論文5編)が送られてきます。
前回述べたように今年度から若手及び中堅を対象とした2つの賞が新設されたため、書類の量が更に増えました。
ノミネーターは事務局に規定の書類を締め切り期日までに送付します。選考委員会の委員全員でそれを手分けして審査しますが、一人あたりでもかなりの量です。はっきり言って審査する側も大変です。
アメリカで職や賞に応募する際には必ずといっていいほど推薦状の提出を求められます。だいたいの場合、候補者を推薦できるなかで最も地位の高い人物の推薦状が添付されています。
しかしながら、このような推薦状は科学賞には不要であるというのが私の意見です。その理由は、推薦状を書く際に悪いことを書く人は殆どいないので中身に大差はないからです。単に知り合いであるだけの場合も含まれ、その人物の人的ネットワークを垣間みることができるという意味合いしかないです。人的ネットワークは副次的なものであり、その人の科学の業績とは本来関係のないことです。
科学賞とは、本来的には、その人物の科学的業績により科学が進歩して世界を変えることができたかどうかを評価基準とするべきものです。そういう意味で推薦状等の科学的業績とは別の書類で評価することは本来の科学賞の目的・趣旨を歪めてしまうものだと思うのです。ですから、私はどの科学賞の審査の際にも推薦状は参考程度にしか見ないことにしています。むしろ候補者の書いた論文の価値そのものを評価するようにしています。
その際に私が最も重視するのは、端的に言えば、その候補者がもし研究をやらなかったら、その候補者の論文が世になかったら、世界がどう違うかということです。仮にその候補者が研究しなくても、現在の世界にほとんど違いがないと判断できる場合、たとえ超一流誌に論文を発表していたとしても、評価は当然低くなります。
それとは逆に、ある新分野を独力で切り開いたとか、新しいパラダイムで科学の見方を変えたとか、そういう候補者は評価が非常に高くなります。
また論文数よりも論文・研究結果の持つ長期にわたる影響力が大事です。2-3年で人気が廃るような論文は長期的影響力は低いです。
評価する際には、その候補者が主導した上位5つほどの論文を見れば十分です。
若手が対象になっている科学賞の場合は、この私の審査基準を適用するとやや厳しい場合もあるため、世界を変える可能性・才能があるかを中心に見ていきます。
現状、FASEB Excellence in Science Awardでは、ノミネーターが大量の応募書類を送付する必要がありますが、はっきり言ってそのような無駄な事務作業を強いるような仕組みでいいのかと思います。
一流とされる科学者に候補者となりうる人物を何人か挙げてもらい、選考委員会や事務局で厳重に審査するのが一番いいと思います。
ノーベル賞などはまさにそのような選考過程で審査されているように思います。ですから、サプライズで日本人のノーベル賞受賞ということも過去にありました。私も今年のノーベル生理学・医学賞の候補者を挙げるようにノーベル賞委員会から正式に依頼があり、光栄にも何人かノミネートさせて頂きました。今年の秋が楽しみです。
早速、自分の任期が切れる前に、FASEBの科学賞選考委員会に審査に対する自分の考えを伝えました。何かを変えるためにはすぐに行動を起こすのも私のモットーです。