イギリス出張4(CRUKサミット)

ボストンに帰ってきました。今回のイギリスへの出張の主要目的はウインザーでのCancer Research UK (CRUK) Grand Challenge サミット(1月23日から25日まで)への参加でした。これに合わせてオックスフォード大学やロンドンも訪問したのですが、それについてはまた次回以降に書きます。

Cancer Research UK (CRUK) とは、年間約920億円の収入があるイギリスの非営利団体で、癌を研究・予防・克服するための様々な取り組みを行っています。ロンドンの地下鉄の駅に広告があったり(写真)、小さな町にサテライトショップがありグッズ販売や寄付の受付を行うなど、CRUKはイギリスでは広く認知されているようです。

CRUK Grand Challenge(GC)というのは、癌研究の極めて困難な課題(すなわち巨大なチャレンジ・GC)を解決するためにプロジェクトチーム当たり約30億円(5年間)もの資金を交付するというグラント(研究費)・システムです。癌研究の先進的な解決に寄与する研究テーマを募り、その中でベストな計画書を提出したチームを採択します。一昨年の第1ラウンドと合わせて現在7チームが採択されています。このCRUK GCの優れた点はイギリス以外の世界中から応募可能であり、多分野のトップの専門家を束ねた学際的なチームが巨額の研究費を獲得できるシステムである点です。

今年の第2ラウンドで私の属するチームOPTIMISTICC(「楽観的」という意味のOPTIMISTICの単語そのものではなく、あえてCを2つ最後に入れています)はアメリカ、イギリス、カナダ、オランダ、スペインの国際合同チームで、癌における腸内微生物の役割の解明を掲げ、総数130チームにも上る応募のなか研究費を獲得できる3チームの1つに選ばれました。以下のCRUKのサイトに我々のチームの詳細と分かりやすい動画がアップされているので興味のある人はご覧ください。

https://www.cancerresearchuk.org/funding-for-researchers/how-we-deliver-research/grand-challenge-award/Manipulating-the-microbiome-to-beat-bowel-cancer

分子病理疫学をMPEと命名したのも(MPEに関する記事)、インパクトのあるネーミングは重要だからです。一流の研究者はみなこれがすごくうまいです。OPTIMISTICCは本当にOptimisticでベストなチーム名です!

私は早くから癌と微生物の関係性に着目し、MPEと微生物学の融合を目指して研究しています。これについては分子病理疫学の項目でまた書きます。近年、様々な研究からも腸内細菌等の微生物と癌免疫や発癌との密接な関連性が示唆されており、この分野が癌科学のフロンティアであることは間違いないでしょう。

CRUKは、このグラント・システムによって出来上がった国際的・学際的な癌研究トップチームを集めたサミット(会議)を開催することを発案し、それが今回行われたCRUK GCサミットです。ちなみにこのサミットは、すでに研究が進んでいるチームの公式年次報告を兼ねることも目的としています。これにより世界中からそれぞれの分野のトップの専門家を一同に召集することができ、イギリスの研究者との共同研究も促進されます。また、参加する研究者もトップレベルの専門家と意見交換やネットワークができ、双方にメリットがある仕組みです。こうした大きなビジョンのあるグラントのシステムや会議を考えるイギリスの人の底力を感じます。

今回のサミットには各々のチームに属する研究者、CRUKの科学者、患者グループの代表など総勢100人くらいが出席しました。7つのチームの主要研究者のおそらく4分の3程度は参加しているようでした。サミットでは2017年に獲得した4チームのこれまでの研究経過報告およびこれからの計画、2019年に獲得した3チームのこれからの計画について話し合いました。夜のディナーパーティーも大盛況で、真夜中まで盛り上がっており、他にない参加意義のある会議だったと思います。

 参加者の大半はヨーロッパや北米の白人でしたが、韓国系や中国系のアメリカ人(もしくはヨーロッパ人)が数人程度参加しているようでした。男女比はほぼ半々くらいでした。日本でこういう科学のトップの研究者を集めて会議をすると、おそらくたいていの会議(分野)で大半は男性でしょう。最近議論の多い少子化問題にも密接につながっている日本社会一般・科学界の男女不均衡問題も、書きたいことがたくさんあります。

参加していないチームメンバーの中にも中国人の名前が散見されます。しかし7つ全てのチームメンバーの中でも、日本人研究者は私だけのようです。こういうところにも日本人の存在感の低下があらわれているように感じます。この日本人の存在感の低下がどうして起こっているか、どうやって存在感をあげればいいかという解決策の提言も大きなテーマで、書きたいことがたくさんあります。これからもぜひご期待ください。

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